先日来たお客様との話。
高校生のお嬢さんが、毎日せっせと前髪をセットしているとのこと。
ちょっと伸びては切ってみたり、何かと言って前髪を触っておると…
本人にしかわからないこだわりが前髪に詰まっているんでしょうね。
僕もお客様の前髪を切る時はミリ単位でこだわって切ります。
長さだけでなく、毛先の質感、厚さなどなどこだわりどころは満載です。
前髪というと僕には忘れられない、いや、忘れてはならないエピソードがあります。
それは独立前のお店でのこと
新規でご来店したそのお客様は、大学の医学部に通う女子大生でした。
メニューは縮毛矯正とカラーとカット。
かなりの長丁場となるメニューです。
カットは長さを整えて、前髪は普通に少し切ってほしいとのことでした。
縮毛矯正を終え、カラーも終わり、いよいよカットも大詰め、髪の毛も乾かし終わってあとは前髪を切って終わりです。
かなり長い施術でしたが、楽しくお話ししていい感じで施術もできていました。
そう
前髪にハサミを入れるまでは…
僕はいつものように前髪を左手の指に挟み、様子を見るために少し長めにハサミを入れました。
そういつもより長めに。
するとついさっきまで笑顔で話していたお客様の顔色がスッと変わったのを感じました。
お客様はしきりに長めに切った前髪を触って言いました。
『なんでこんなに短く切ったんですか?』
『こんな前髪じゃ、恥ずかしくて外歩けないんですけど!』
僕の背筋に嫌な汗が流れます。
僕にとっては少しもおかしくないその前髪は、そのお客様にとっては受け入れがたいヘンテコな前髪だったのです。
これは完全なる僕のミスです。
お客様に前髪は普通に少しだけ切ってほしいと言われ、僕の普通で切ってしまったのです。
でもそのお客様は目が隠れるくらいの前髪が普通だったのです。
長めに切ったものはその後短くできますが、希望より短くしてしまったものは直しようがありません。
許されるものではないですが、お客様には自分ができる最大限の謝罪をさせていただき施術料金はいただかずにお返ししました。
お客様はカット料金以外は払うとおっしゃっていたのですが、とても頂くことはできませんでした。
とても苦い思い出ですが、僕の美容師人生においてとても貴重な経験となりました。
自分の普通はお客様の普通とは限らない。
あくまでもお客様の価値観でヘアスタイルを作る大切さを知ったのでした。
それからというものお客様が気になるポイントは言葉で確認、写真で確認、実際に少しずつ切りながら確認。
とお客様が安心して施術を受けられるように心がけています。
ヘアスタイルにはその人にしかわからないこだわりがたくさんあると思います。
特に顔まわりや前髪ならなおさらのこと。
そんなこだわりポイントを安心して任せていただける美容師になりたい。
あの時から今まで、そしてこれからもそんな風に思うのだと思います。
前髪はヘアスタイルの一部であると共に、もはや目や鼻のように顔のパーツの一部です。
その人の見た目を左右する大事なパーツ。
そう前髪は命なのです。
それくらいに思って一切り一切りを大切にしています。
あれから何年たったのでしょう?
少しはお客様の前髪のこだわりがわかる美容師になれたと思いたい。